院長エッセイ集 気ままに、あるがままに 本文へジャンプ


車内のゴミは大丈夫?


ガソリンスタンドで必ずと言っていいほど聞かれるフレーズは「車内のゴミは、大丈夫ですか?」である(沖縄県内だけ?)。最初にこの質問を受けた時、私はパニックに陥った。「ゴミは大丈夫?」確かに私の車にはゴミがあふれている。ゴミにとっては私の車は居心地が悪いかもしれない。でもゴミと話したことはないし、そんな感情を持ち合わせているかどうか疑問でもある。いやまてよ、この質問は「こんなにゴミがあるのにあなたは大丈夫ですか?」あるいはもう少し突っ込んで、「あなたのそのゴミは見た目も悪いし有害物質なども含まれているかも知れませんが、あなたは大丈夫ですか?」という意味に違いないと鋭く解釈し、私は速やかにパニックから立ち直って、「(ゴミに囲まれてはいるけれども、全然気にならないし、体の害にもならないだろうから)大丈夫です。」と笑顔で答えた。しかし、いたるところでこの質問を受けていると、これは客に対してあまりにも失礼ではないかと考えた。よけいなお世話である。ところが、その問いを発するお兄ちゃん(お姉ちゃん)は悪びれる様子もなく不遜な態度でもない。そこで私はこれまでの状況を多角的に分析し、論理的な思考回路を駆使して以下の結論を導き出した。「車内のゴミは、大丈夫ですか?」は「車内にゴミがあれば、こちらで処理しますので、ご遠慮なく申しつけください。」と解釈すべきであると。その分析の経緯と結果を細君に報告すると、「そんなの当たり前じゃない。私なんてすぐに分かったわ。」というそっけない返事。これで疑問も氷解し、気分晴れ晴れかというと、その逆である。なぜ素直に「ゴミがあれば回収させていただきます。」と言わないのだろうか?「車内にゴミはございませんか?」でも十分である。「ゴミは大丈夫?」って、主語は何?何が大丈夫なの?大丈夫という言葉にこれだけの意味を持たせて大丈夫?どの給油所も揃いも揃ってとんちんかんな日本語を使うとは何事だろう。日本給油所連絡会議・お客様サービス委員会(沖縄支部)というものがあって、そこで「ゴミは大丈夫」という表現に統一しましょうと決まったのだろうか?まあ、それほど目くじらを立てるほどのことではないかも知れない。間違った言葉・用法であれ、皆が使うようになれば辞書にも載るようになり、正しい日本語として認知されるようになる。これは歴史が証明している。言葉は生き物で、良しにつけ悪しきにつけ、時代と共に変遷するのは世の定めである。しかし、だからこそ正しい日本語を端正に使う良識が、我々一般庶民に必要だとも言えるのではないだろうか?今度給油所で「ゴミは大丈夫ですか?」と聞かれたら、正しく美しい日本語を守るという使命感に燃える一市民として、「大丈夫ってどういう意味ですか?」と詰問しようと思うのだが、いざその時になると、「大丈夫です。」と小声で答えてしまう。小心者で、はなはだ心許ない私である。

 

 


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